例えばその眼差しだとか
例えばその指先だとか
例えばその髪の毛だとか

そして何よりも、
あなたのその『 』が









「白龍」


ぱちりと伏せていた目を上げればそこには彼がいて。


「どうかしたのか?もしかして疲れた?」


ずっと俺が目を閉じていたのが悪かったのだろう。どこか不安げなその表情…それを払拭するために軽くふるりと首を振る。


「いいえ、少しぼーっとしていただけです。バイト中だというのにすみません」
「いや、もう店自体は終わりだし、そんな気を張る必要はねぇよ」


真面目なやつだと笑う人。
きっとあなたは俺が誰を想い考え、思考に沈んでいたのか…一生気付くことはないのでしょうね。


「とりあえず一通り掃除は終わりました」


持っていた箒を片付けるべく動きつつ、そちらはどうかと問い掛ける。


「ん、厨房も終わったから今日の仕事はお終いだな」


お疲れと彼の傍らを通り過ぎる際に肩をポンと叩かれた。そんな一瞬の触れ合いすら未だに慣れない自分。
触れられた部分だけいやに熱を持つような、そんな錯覚をおぼえた。嗚呼もうこの熱はきっときっとしばらく俺を苛むに違いない。じりじりと身を焦がす温度に無性に泣きたくなった。
それを振り切るように歩みを進め、いつもよりも少々乱暴に箒をしまい込んだ。

(こんなの八つ当たり以外のなにものでもない…のに)

なのに時々どうしようもなく彼に怒りたくなる。あなたはどうしてそうなのかと。いっそ感情のままに彼に縋り付ければ良いのに。…しかしそうするには自分は年齢を重ね、また同時に幼かった。

(童心の恋ほど美しくもなく)
(喚き立てるほどの繋がりなど俺と彼の間には無いのだ)

時に悲鳴を上げそうになるこの胸中。だが良いのだ…彼はこんな想いなど知らなくて。この気持ちはきっと彼を困らせてしまうばかりだから。

(だって俺はあなたの笑顔に惹かれて此処に在るんですから)

だからこそ彼の表情を曇らせるようなことはしたくない。そんなことは自分が許せない。

(一目惚れ…だなんて)

恥ずかしく青臭く、けれど誇らしいとも思えるこの気持ち。




「アリババ殿」


するりと身に着けていたエプロンを外し、そうして自分なりに笑顔を形作る。


「では先に失礼します」
「ああ、今日もありがとうな。本当に白龍とモルジアナが入ってくれて良かった」


にっこりと笑顔を返してくれる彼に軽く頭を下げ、もはや恒例化している挨拶を口にした。


「こちらこそありがとうございます。どうぞ気をつけて帰って下さいね」
「まあ最近物騒だしな。白龍も気をつけて帰れよ」
「はい。…それではまた」
「ん、またよろしく頼むな!」


次のシフトは明後日だ。早く一日が過ぎれば良いのに。
そんなことを思いつつ、もう一度頭を下げてからその場を後にした。














例えばその眼差しだとか
例えばその指先だとか
例えばその髪の毛だとか

そして何よりも、
あなたのその『笑顔』が


(…これがたぶん愛しいということで)




笑みを咲かせる彼が
きっと世界で一番美しい
そう思い想えるほどに

俺はあなたを愛している




(分かりますかアリババ殿?)

あなたは知らないままでしょう。



















『ねぇ?』

(初恋…なんですよ)